王様マニア・弐 「ま〜た、居ねぇのか」 主のいない部屋を見渡し、六太はため息をついた。 あれほど連れて行けと言ったのに肝心な時には置いていかれる。おそらく麒麟には不向きな所へ行っているだろう。 だが、それでも共にありたい。そう思うのは麒麟故なのか六太自身なのか。……己でも判っていなかったけれど。 「何か腹立つ」 六太は眉間にしわを寄せるとぽつりと言い放った。ついで子供のように誰もいない部屋へ舌を出す。 「ば〜か、嘘つき〜、女ったらし〜！」 さんざん悪態を付いてから、自室へときびすを返した。 「もう、尚隆なんて知〜らねぇ」 六太は自室に戻るなり、部屋の奥をごそごそと探っていた。入口から死角になっているそこは壁にぽっかりと穴が開いている。――いや、それは穴ではなく、大人が一人通れるくらいの隠し扉だった。六太は難なくそこを通り抜けると、外からは見えないようにぴっちりと扉を閉めた。 中は小さな部屋になっていた。 何時の時代に何のために作られたのだろうか。六太が偶然見つけた時も中には何もなく、ただ空間だけが広がっていた。その割に天井には玻璃が嵌め込まれ、そこから差し込む光で中は明るい。 六太にとってこの場所は人に――特に尚隆には見られたくないものを隠すのに最適だった。最近、麒麟の間で流行っているものに、六太も漏れなくはまってしまっていたから……。 六太はふうっと一息つくと床に倒れ込んだ。その小さな身体を綿のたっぷり詰まった丸い形の衾褥が柔らかく受け止める。 蓬莱で言う所の大きなくっしょんに似せた衾褥に寝そべりながら、六太は傍らに転がる人形に手を伸ばした。だが、掴むなりぽいっと投げ捨てる。人形は部屋の端に到達すると、同じような顔が並ぶ中に埋もれた。 「尚隆なんて知らないって言いつつ、何で俺はここに籠もるんだよ……」 自嘲気味に呟き、もう一度ため息をついた。 周りにはいくつもの人形が並んでいる。しかも、大小の差はあれどもその顔はみんな同じ。 最近、麒麟の間では主上の人形を作ることが流行っていた。つまり、六太は尚隆の人形作りにはまっていた。 「何でこんなに作ってるんだよ、俺は……」 出来上がった作品を見つめ、六太はまたもやため息をつく。しかも、見つめているうちに恥ずかしくなってきた。 「べ、別に尚隆が作りたい訳じゃないんだからなっ！」 思わず誰もいないのに良い訳をしてしまう。 事の発端はもちろん景麒と供麒。それがどこをどう広がっていったのか、麒麟の間で大流行となっていた。六太も試しにと作ってみたのだが、気がついたら大はまりしていた。 「……暇だからな、俺」 言い訳をしてみるが、それは正しくはない。いくら六太がさぼり魔であっても、そんなに毎日毎日人形ばかり作っていられる訳がない。だが、着実に数が増えていく。しかも、その腕前は上がるばかりだった。 六太は一番新しい尚隆人形を鷲掴みにした。ほんの数日前に置いてきぼりを食らった時に作ったもの。 「お前が悪いんだ。ば〜か」 ひと言呟き、ぽふりと衾褥に顔を埋めた。 玄英宮に戻ってきた尚隆は真っ先に六太の部屋にやってきていた。さぞかし不機嫌になっているだろう。 「お〜い、六太。土産だぞ〜」 ご機嫌取りの為のまんじゅうを手に名を呼ぶが、返事はない。 「あれ？ いないのか？」 室内を見渡して誰もいない事を確かめるが、どうしてもここにいる気がする。こういう時の尚隆の勘は良く当たった。 しばらく考え込み、六太の使令を呼ぶ。 「悧角」 「ここに」 姿は見えずとも即座に足下から返事が返ってくる。 尚隆は目線を落として問いかけた。 「六太はどこにいる？」 「ここにはいらっしゃいません」 間髪入れずに返された答えに、尚隆は器用に片眉をあげた。悧角がここにいるという事が六太がここにいるという証拠だ。 「ん？ お前の主は誰だったっけ？」 「台輔です」 またもや返ってきた答えに、楽しそうににやりと笑った。 「なるほど。悧角。姿を現せ」 尚隆の命令に悧角は音もなく床から現れた。その表情は悪びれるどころか、感情すら窺い知れない。 尚隆はもう一度にやりと笑った。 「その台輔の主は誰だったっけ？」 「主上です」 表情通りしれっとこぼされた答えに満足すると、尚隆は最初の問いに戻った。 「六太はどこにいる？」 尚隆は隠し部屋に入るなり、思わず苦笑した。部屋に並ぶ人形たち。 「これは……」 隠し部屋と言うだけでも驚いたというのに、こんなおまけがあろうとは。 尚隆は数ある一つを手に取ると、くすりと笑った。 「結構うまいな」 部屋の中央へ目をやれば、六太がうつ伏せで眠っている。手には尚隆の顔をした人形を握りながら。 尚隆はゆっくりと近付くと、その横に寝そべった。のぞき込んだ寝顔はどことなく寂しそうだ。 「……随分、可愛い所があるじゃないか」 尚隆は思わず笑みを漏らし、その金の頭の上に人形を乗せた。 |
やっと弐が出来ました〜！何て言うか、ただ尚隆が役得なだけですね。
しかも、キリリクと被っています。あはははは。
もう、六太ってば尚隆の事好きすぎ。（笑）
こんなんだったっけ？ うちの六太……？ ま、王様マニアだしね！ いっか。