ＥＮＤ
2002/09/23

8888hitキリリク


『ナルトのお見舞い』


　うちは家の広く大きい邸宅の一室で、外はまだ明るいというのにサスケはもう床についていた。
　柔らかい布団にくるまりながらため息をひとつもらすが、それは熱を持っていて熱い。
　もちろん、それに続くつぶやきも同じだった。
「情けない…」
　こぼれ出た言葉は弱々しく響き、よりいっそう惨めな気分にさせた。
　体調を崩した上に熱まで出すとは…。
　サスケは己が情けなくて仕方がなかった。
　忍びは体が資本。
　それなのに、体調管理も満足に出来ないとは何事であるか。
　しかし、ぼやいてみても体がだるく熱いことには変わらない。
　今、出来ることはこれを明日に伸ばさないことだけ。
　そう言い聞かせ、サスケは体力を回復すべく目を閉じた。
　うとうととまどろみかけた頃、玄関先に見知った気配がした。
　次いで、戸を叩く音と声が。
　ドンドンドンッ。
「サスケーッ！！」
　ぶち壊しそうな勢いで戸を叩きながら大音量で名前を叫ぶ。…いや、喚くと言った方が正しいだろうか。
　こんな事をする人物は一人しか知らない。
　放って置いてもかまわないのだが、その人物は恐ろしいくらいにあきらめが悪かった。
　あきらめるまで待つには今のサスケには辛い。
　それなら相手をしたほうが早いだろう。
「…ったく。叩き壊す気か」
　サスケは舌打ちをしつつ、重い体を引きずって玄関へと向かった。
「サ〜スケ〜！」
　なかなか出てこないサスケに焦れたのか、またもや大音量でナルトが叫ぶ。
　それを間近で聞き、サスケは眉間にシワを寄せた。
　カラララッ。
　玄関の戸を開ければ、目の前には金色の頭をしたスリーマンセルの仲間。
　もう一度戸を叩こうとしていたのか、拳を振り上げているところで止まっていた。
「…うるさいぞ。ナルト」
　怒鳴る元気もなく、目をすわらせたまま低く呟くが、当人には全く持って効果なし。
　それどころか、悪びれもせずに笑っている。
「ワリィ、ワリィ。サスケ調子悪いんだろ？　見舞いに来てやったってば！」
　だったら玄関先で騒ぐな、と言いたいところだが、どうせムダだろう。
　見舞いの品なのか、一応荷物を持って来てはいるがまるで遊びに来たような調子だ。
　まともに相手をしていたら、治るものも治らない。
　サスケはため息を一つつくと、
「…入れ」
　中へとナルトを促した。


　ナルトは勝手知ったる様子で台所へ向かうと、手にしていた荷物を卓子の上へゴトリと置いた。
　大きさもそうだったが、その音から尋常ではない量だとわかる。
「…それは一体なんだ」
　袋の隙間から見えた大量の丸い物体。
　想像はついているが、あえて確かめておきたい。
　サスケの質問にナルトは得意げに答える。
「リンゴだってば！　病気の時はこれが一番だってイルカ先生が言ってた」
「…だからといって、量には限度というものがあるだろうが」
　どう見ても、20個近くはある。
　それを全部食えというのだろうか。
　一人分にしてはあまりにも非常識な量だ。
　考えただけでも腹いっぱいになる。
「まあまあ、気にすんなって。ほら、サスケは寝てろってば！」
　そんな非常識さを何でもないことのようにさらりと言いつつ、ナルトはサスケの背中を押す。
　しぶしぶと寝室へと向かうが、サスケは不安でいっぱいだった。

「サスケ？　入るってばよ？」
　とりあえず大人しく布団に入っていたサスケだったが、障子越しにナルトに声を掛けられて起き上がる。
「ああ」
　短く返事をすると、盆を片手にナルトが入ってきた。
　その上にはすりおろしたリンゴの入った皿が載っている。
　とりあえず量は1個分のようだ。
　その事に酷く安心して、ホッと胸をなでおろす。
「？」
　その様子にナルトは首を傾げるが、特に気にした風もなく傍らに盆を置いた。
「これなら食べられるだろ？」
「ああ」
　思いがけずまともな看病をするなと感心をしつつ、サスケは皿を受け取ろうと手を出すがいっこうに渡される気配がない。
「ナルト？」
　振り向くと、笑顔でリンゴの載ったさじを差し出された。
「ほい。口開けろってばよ」
「な…ッ！」
　その行動に驚いて口を開いてしまい、ちょうど良いとばかりにさじを突っ込まれる。
「ムグッ」
　すると今度は反射的に口を閉じてしまい、そのままリンゴを飲み下してしまった。
　それを満足げに眺め、ナルトはふたくち目のリンゴをすくう。
「ほい。次」
　またもや目の前に差し出されて、サスケは慌ててそれを遮った。
「ちょ、ちょっと待て！　ナルト！」
「ん？」
　自分の行動のおかしさに気付いていないのか、ナルトはただ首をかしげる。
　その様子にため息をつきつつ、サスケはナルトの手から皿とさじを奪った。
「自分で食えるから…」
　ひとこと言い置いて、黙々とリンゴを口に運ぶ。
　何だか、一気に体力を使ってしまったような気がした。
　その上、頬が熱い。
　…これは、熱のせいではないようだが。
「何だってば？　イルカ先生がいつもそうしてくれたからマネしたんだけど、それってば変なのか？」
「いや…」
　不思議そうに尋ねられて、サスケは何とも言いがたかった。
　確かに、イルカとナルトであればおかしくはないだろう。
　だが、サスケとナルトでは…。
　友達というわけでもなく、ましてや恋人というわけでもない。
　ただのスリーマンセルの仲間という間柄。
　それに付け加えるなら、サスケの方だけは特別な思いを持っているということぐらいで…。
「…まあ、俺は嬉しいけど」
「え？　何だってば？」
　ポツリとつぶやいた言葉はナルトには聞きとれなかったようで聞き返されたが、サスケは食べ続けることで返事を拒否した。
　今はまだ言えない。
「サスケってば変なの。いきなり顔赤くなるし！」
　ぷうっとふくれるナルトにサスケは心の中で苦笑をもらす。
『いったい誰のせいなんだか…』
　進展するにはまだまだ時間がかかりそうだった…。

へっぽこな私には「浮気ネタ」は無理でした。(^_^;;
まあ、もし出来たとしてもうちの二人は浮気とは程遠いものなので
ナルトが勘違いするくらいですね〜。(笑）
でも、これは「病気ネタ」と言えるのかどうか…。微妙？
ま、それはともかく。藍様、8888hitありがとうございました！