After Valentine’s Day 「はい、ナルト。あんたにもあげるわ。もちろん義理だけど」 前置きをしてから、サクラがきれいにラッピングされた小さな箱を差し出した。 「ありがとうってばよ」 ナルトはそれを不思議な想いで眺めてから、素直に受け取る。だが、中身は当然の事ながら何故くれたのかがわからなかった。 サスケとカカシにも同じものを渡している。 じっと手の中の箱を眺めるが、やっぱりわからない。ナルトは考えることを放棄すると、素直に尋ねた。 「なぁ、なぁ、サクラちゃん。くれるのはすごく嬉しいんだけどさ、これ、何だってばよ？」 その質問にサクラだけでなく、カカシさえも驚いて振り返った。 「え！？ 何ってチョコレートよ！ 今日はバレンタインじゃないの！」 だが、その返ってきた答えさえもナルトはわからなかった。 「……？ バレンタインって何だってばよ？」 続く言葉にサクラは一瞬にしてナルトの元へと戻ってきた。ガシリと両肩を掴み、ドアップで聞き返す。 「ナ…ナルト…。バレンタイン知らないの？」 「うん。だから何なんだってばよ？」 きょとんと首をかしげるナルトにサクラはガクリとうなだれた。 「…てことは、サスケくんにチョコレートを用意…なんてしてる訳ないわよね…？」 半ば分かっている事を恐る恐る聞くと、 「へ？ 何でサスケにチョコレート？ あいつは甘いの嫌いだってばよ？」 予想通りの言葉が返ってくる。 「いや、そういう事じゃなくて…。あのね、ナルト。今日2月14日はバレンタインデーっと言って、好きな人にチョコレートを上げる日なの」 サクラの説明に、ナルトは薄っすらと記憶をたどった。そして、何とか思い当たる。 「そう言えば…毎年、女の子たちが何かワイワイやっていたような記憶があるってばよ。オレ、全然関係なかったし」 アハハハと笑うナルトに、サクラは彼の人に対して同情を禁じえない。 ちらりとサスケを盗み見るが、サスケはそんな事はわかっていたらしく、何の感情も窺えなかった。 サクラはしばらく考えると、ぽつりと呟いた。 「…リーさんごめんなさい」 少しだけ遅れます、と心優しい人に謝ると、ナルトの腕をガシリとつかんだ。 「サクラちゃん？」 「ナルト、来なさい！」 驚くナルトをそのままに、腕を引っ張る。 「カカシ先生、サスケくんお疲れ様っ！」 「お疲れさん」 「ああ」 残された二人に投げるようにあいさつをし、その返事も既に遠くで聞きながらナルトを連れ去った。 翌日、サスケの家の前でナルトは入るのをためらっていた。 しばらくモジモジと突っ立っていたが、それに気付いたサスケが玄関を開ける。 ナルトは突然現れたサスケに驚くと、とっさに持っていたものを後ろに隠した。それを目の端に映しつつ、サスケはナルトを促す。 「入らないのか？」 「う…うん…」 だが、ナルトは生返事を返すだけで、その場から一向に動こうとしない。 しばらくの沈黙の後、おずおずと口を開いた。 「あの…さ…。昨日、バレンタインだったよな？」 「あぁ」 教えてもらったばかりの事柄の確認に、サスケが簡潔に答える。 返事を受け、ナルトは視線を落として続けた。 「サスケは…さ…、いっぱいもらったんだよな…？ その…チョコレート…」 「もらってない。サクラのだけだ」 「…えっ！？ 何でだってばよ？」 予想外の答えにナルトは驚いて反射的に顔を上げた。 だが、サスケは逆に予想通りのその行動に苦笑をもらす。 「お前がいるのにもらってどうするんだ。それに、サクラのは義理だと分かりきっているからもらったんだ」 昨日、サクラに色々と教え込まれたのだろう。サスケの言葉にナルトは微かに赤くなった。 嬉しさに顔がほころぶ。 「そっ…か…」 その表情にサスケもわずかに微笑むと、静かに催促をする。 「お前はくれないのか？ …それ、作ってくれたんだろう？」 「う…」 後ろに隠したものを指摘され、ナルトはさらに赤くなった。 だが、まだ素直に渡せず、しどろもどろと言い訳を繰り返す。 「でも…バレンタインは昨日だったし…、い、今さらだし…。それに、それにさ、本当は女の子があげるものだってばよ…」 次第に小さくなっていく声に、サスケはふぅっと息をついた。 「だったら、俺たちにはちょうどいいんじゃねぇの？」 「え？」 思わぬ言葉にナルトは問いを返す。 「バレンタインが女のものだって言うんなら、次の日くらい好きにしてもさ」 「サスケ…」 名前を呼ばれて、サスケはもう一度催促をする。 「くれないのか？」 「……欲しい？」 ためらいの後の微かな問いに、 「ああ」 サスケは短く答えた。 それに後押しされ、ナルトは少し不恰好にラッピングされた箱を勢いよく差し出す。 「じゃあ、やるってばよ！ 旨すぎて気絶するなってばよ！」 あまりの調子のよさに、サスケはニヤリと笑った。 「胃薬があるから大丈夫だ」 「ムカつくってばよ」 サスケの物言いにナルトは口を尖らせてすねるフリをした。 「じゃあ、お返しは3月15日にしてやるよ」 苦笑をもらしつつそう言えば、 「期待しているってばよ！」 ナルトはすぐさま明るい笑顔になった。 |
ものすごい勢いで、季節、外れまくりのお話です。(苦笑)
本当はちゃんとその時期に考えたんですが、間に合わなかったんです…。
それで、未発表だしと思って拍手のお礼小説にしました。
ありがとうございますｖ