華雨


　満開となった桜の大木。
　風にあおられて桜の花びらが舞い散る。
　その薄紅の幕の下でサスケが佇んでいた。
「ナルト……」
　幹に手をやり、今は亡き愛しい人の名をつぶやく。
　顔には……笑みが浮かんでいた。

　それは偶然だった。
　任務の帰り、何気なく向かった森の奥でそれを見つけた。
　大きさを除けば何処にでもあるような山桜。
　だが、サスケにはすぐわかった。
　これはあの時に見た桜……ナルトと花見をすると約束した桜の木だと。

　サスケはその場に腰を下ろすと、ゆったりと幹に背を預けた。
　見上げれば薄紅色の花びらが何枚も何枚も舞い降りてくる。
手を伸ばせばそこにも。
「あの時は花見どころじゃなかったからな……。今度こそ約束を果たしたぞ。見ているか？　ナルト。綺麗だぞ」
　周りは音もなく、ただ桜の花びらだけが静かに舞い落ちる。

　そこへ突然ポツリ、と。
　柔らかい雨が降り注ぐ。
　決して強くはなく、だが、確かに。
「喜んでくれているのか…」
　サスケはクスリと笑みを漏らした。

　彼の人が涙を流すのは、嬉しい時だから……。

END
2007/09/12
（初出：2003/07/29）

NARUTO本1冊目、『この星空の彼方』のもう一つの書き下ろし。
『この星空の彼方』のエピローグ的短編。
華雨とは、華に降る雨、もしくは雨のように振る華のことです。