天泣―テンキュウ―


「ナルト、お前のことが好きだ」
「は……っ！？」
　別に伝えるつもりなどなかったのに、思わず口から出てしまった。
　普段の態度からしてもこの言葉が信じられる訳がないだろう。現に、ナルトは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたまま絶句していた。
　だが、今さら撤回するつもりもない。そんな必要はなかった。
　紛れもない真実なのだから。
　止まったままでいるナルトにもう一度言う。
「お前の事が好きだ」
　それで我に返ったようだが、ナルトは毒気が抜かれたように小さくポツリともらす。
「か……からかってんじゃないってばよ」
　否定の言葉にこちらも“否定”で返す。
「本気だ」
「嘘だってばよ」
「嘘じゃない」
「そんな訳ないってばよ」
「お前が好きだ」
「サスケっ！」
　押し問答の末、ついにナルトは声を上げた。しかし、その表情は迷惑というよりも困惑といった風だった。
　だからこそサスケは重ねて言う。
「お前の事が好きなんだ」
　そこでようやく肯定的に取れたのだろうか。ナルトはおそるおそる聞き返してきた。
「……本当に？」
「ああ」
　間髪入れずにうなずいた。
「……」
　ナルトはしばらく黙っていたかと思うと、突然ふわりと微笑んだ。
　あまりの事に思わず見入ってしまう。
　だが、すぐにナルトの頬に涙が伝った。
　突然の展開に頭が付いていけず、思わずうろたえてしまう。
　涙など見た事がなかったから。
「ナ……ナルト。どうしたんだ？」
　珍しい様子にナルトがクスリと笑いをこぼす。
　そして、笑顔のままぐいっと涙をぬぐった。
　それでも…また流れたけど。
「大丈夫だってば！　嬉しい時に涙は出るんだってーの！」

　晴れわたる面(おもて)に涙の雨が降る。
　でも決して――……悲しい雨じゃない。

END
2007/09/12
（初出：2003/07/29）

NARUTO本1冊目、『この星空の彼方』の書き下ろしをWEB初公開。
『この星空の彼方』のプロローグ的短編。 天泣とは、晴れているときに降る雨のことです。文字通り、天が泣くということ。