うつつのヨロコビ 「ナルト〜！ 明日、ちゃんと6時にイルカ先生の家に来るのよ〜！」 最後の念押しにと、もうかなり遠くなった所からサクラが声をかける。それに手を振りながらナルトも大声で返した。 「わかってるってばよ〜！」 ナルトの返事にやっと気が治まったのか、心配性なサクラはようやくまっすぐに家へと向かう。その後ろ姿を見送りながらナルトはぼそりとこぼした。 「ちゃんと、覚えてるってばよ…」 だが、その声には苦笑いといった感じは見られず、表情もほんわりと柔らかい。実際、ナルトは嬉しいのだった。 気をつけていないとすぐに顔がにやけてしまう。 「何笑ってんだよ？」 からかい気味にサスケに突っ込まれても止められない。 「だって、嬉しいんだってば」 にっこりと満面の笑みで答えれば、サスケはもう何も言わなかった。…いや、その嬉しさを知っているだけに言えなかった。 ただ、短く返す。 「そうか」 「へへっ！」 本当に心底嬉しそうな笑顔にサスケも何だか嬉しくなってくる。 「じゃあ、帰るか」 「おう！」 促されて元気よく返事したナルトの足は半分スキップになっていた。 家に帰ってきて時間が経つにしたがい、ナルトは不安になってきた。 もちろん、みんなを疑っているわけではない。だが、こういった事に慣れていないナルトは考えが悪い方向へと向かってしまっていた。 今日、本当に帰る直前に言われたのだ。 「ナルト。明日あんたの誕生日会するからね。夕方の６時にイルカ先生の家に来るのよ？」 「へ？」 サクラの言葉が一瞬理解できなかった。ナルトは目を見開き、そのまま固まってしまう。 想像通りの反応に、サクラはクスリと笑いを漏らすともう一度言う。 「だから、誕生日会。あんた明日誕生日でしょ？ そうとくれば、お祝いじゃない！ ちゃんとイルカ先生とカカシ先生とサスケ君とで計画立てたんだから。…まあ、カカシ先生はあんまり役に立ってないけど、イルカ先生なんて大張りきりよ！」 カカシの密かな抗議の視線を無視しながら、サクラはその時の様子を思い出してクスクスと笑った。 そんなサクラを呆然と見つめてナルトはポツリとこぼした。 「本当に…行っていいの…？」 普段とはかけ離れた弱々しい問いにサクラは驚いた。時折、ナルトが与えられる好意にとまどっているのには気付いていた。イルカは例外だとしても、サクラたち7班のメンバーには慣れてきたと思っていたのに…。 少し寂しい気持ちがしながらも、それを吹き飛ばすようにナルトをベシッと叩いた。 「やぁねぇっ！」 「いてっ」 反射的に上がったナルトの声を無視してサクラは続ける。 「主役のあんたが来なくてどうすんのよ？ いい？ 6時にイルカ先生のうちよ！ わかった？」 「わ…わかったってばよ」 鼻先に人差し指を立てられ、ドアップでまくしたてられて、ナルトは焦りながら返事をした。その様子にサクラは満足げにうなづいた。 「わかったなら、よろしい」 まるで先生のような口調にナルトは思わず笑ってしまった。 「じゃ、また明日ね。ちゃんとプレゼントも用意してるからね！」 この後にさらにもう一度念押しをしてからサクラは去っていった。 一連の出来事を思い出して、ナルトは小さくはぁっとため息を吐いた。 「明日朝起きて、全部オレの想像だったらどうしようってば…」 そんな事を考えていたら眠れなくなってしまった。着々と時間だけが過ぎていく。 時計を見れば、もうすぐ12時を回る所だった。 「うわぁ、もうこんな時間だってば…」 わたわたと焦っていたら、窓の方でカタンと小さな音が鳴った。 「？」 風にしては不自然な音だった。どうせ眠れないのだから、と窓を開けてみれば…人がいた。 「サスケっ！？」 「よう」 驚きに目を瞠るナルトとは対照的にサスケはひょうひょうと言い放つ。 思わずナルトは脱力した。 「よ…よう、じゃないってばよ…。こんな時間に何してるんだってばよ？」 「お前こそ、余計なことを考えて眠れないんだろう？」 「う…」 質問の答えに図星をさされてナルトは言葉が詰まる。 ナルトの様子に、サスケはため息を吐いた。仕方がないのかもしれないが、歯がゆい。 その時、沈黙してしまった二人を見計らったようにポーンと時計が鳴った。 反射的に二人とも時計を見る。 「12時になったな…」 「うん…」 「ナルト」 「ん？」 「誕生日おめでとう」 掛けられた言葉に一瞬驚いたが、すぐにふわりと照れ笑いを浮かべた。 「ありがとう…だってば…」 嬉しそうな顔に満足したサスケは、 「じゃあな」 帰ろうとして…帰れなかった。ナルトが服のすそを掴んでいた。 「ど、どこに行くんだってばよ？」 「どこって…家へ帰るんだが…」 困惑するサスケをよそに、ナルトは必死に言い募った。 「も…もう遅いから家に帰るの大変だろ？ 泊まっていけってばよ！ パジャマぐらい貸してやるってばよ…」 最後の方の声は消え入りそうだった。 こんな訪問するには非常識な時間に現れたにもかかわらず、心配をしてくれるナルトに自然と頬がほころぶ。サスケに否やはない。 「じゃあ、お言葉に甘えて」 非常識ついでに窓から失礼した。 朝、目が覚めたナルトは、隣に眠る人の顔を見つけて一瞬驚いた。が、すぐに喜びに変わる。 「ホンモノだってば…」 昨日の出来事は想像なんかではない。現実だった。 ダメ押しとばかりに、眠っていたはずの人物から声が返ってくる。 「夢でもマボロシでもないぞ」 「わかってるってばよ！」 満面の笑みは、さわやかな朝にお似合いだった。 そして、ナルトはもう一度同じ言葉を聞く。 イルカの家に着いて思わずホッとした時に。 「夢でもマボロシでもないわよ！」 キッパリと言い切った言葉に、やはり笑顔で答えた。 「わかってるってばよ！」 もう、疑ったりしない。 不安になったりしない。 このヨロコビは…確かなものだから。 |
ナルト誕生日おめでとう〜！ いえ〜い、今年は間に合った〜！(笑)
でも、誕生日祝いのわりに、よく読むとちょっと内容が暗いかも。
ま、最後はシアワセなのでいいかな？
フリー配布ですので、よろしければお持ち帰りください。
あ！サスケは夜這いに来た訳じゃありませんよ〜！(笑)